気を付けよう!貸倒損失の損金算入時期

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気を付けよう!貸倒損失の損金算入時期

2018年

2018/11/07 気を付けよう!貸倒損失の損金算入時期

大阪で税理士事務所・公認会計士事務所として開業している公認会計士大里眞司事務所です。

 

会社が会計上一定の基準を設けていつ貸倒損失を計上するかは自由ですが、税務上損金算入できるかどうかは基本的に法人税基本通達(以下、法基通)9-6-1,9-6-2,9-6-3によることになります。具体的には下記の通りです。

 

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従って、会計上貸倒損失を計上しても税務上損金算入できない場合は申告加算する必要があります。

 

尚、税効果会計を採用している場合、申告加算した貸倒損失は将来減算一時差異となりますが、通常はその一時差異が解消される時期(損金算入時期)が不明になるためスケジューリング不能差異として繰延税金資産を計上できないケースが多いと思います。

 

■法基通9-6-1の場合

法律上の貸倒れの場合は、その事実が発生した事業年度に「貸倒れとして損金の額に算入する」規定となっていますので、会計上貸倒損失計上するか、しない場合は申告書上申告減算できることになります。

 

確定申告書上この年度に損金算入し漏れた場合は、申告期限から5年以内であれば更正の請求をすることにより損金算入できますが、その後は永久に損金算入できなくなりますので留意が必要です。

 

また、債権放棄による免除は比較的実施しやすいと思われますが、貸倒損失計上したものの要件を満たさず、税務当局から否認され寄付金扱いされると永久に損金算入できなくなる可能性が高いため、要件を確保するための回収努力や根拠資料をそろえておくことが重要となります。

 

特に子会社に対する債権放棄は多くの要件を満たす必要があります(法基通9-4-1、9-4-2)。

 

■法基通9-6-2,9-6-3の場合

事実上の貸倒れや形式上の貸倒れの場合は、その年度に「貸倒れとして損金経理をすることができる」規定となっていますので、要求されている損金算入時期に会社が貸倒損失として損金経理しなければ、その後の事業年度に損金算入することはできません。

 

その年度に貸倒損失計上するか否かは法人の任意となり、これを選択しない場合は法基通9-6-1の法律上の貸倒れが生じたときまで貸倒処理は延期されることになります。

 

尚、法基通9-6-2は貸倒処理できるか否かの判断が非常に困難なため留意が必要です。

 

継続的取引先からの債権回収が滞り取引停止するのであれば、日々の滞留債権管理、取引先に対し電話問合せや督促などの経過をきちんと残し、比較的判断が容易な法基通9-6-3により1円を残して貸倒損失計上しておくことが無難かと思います。

法的手続が行われるまで待つと、かえって損金処理が遅くなるからです。

但し、何も回収の努力をしないまま取引停止後1年以上経過したということだけで貸倒損失計上すると否認される可能性が高いです。

 

■貸倒損失として損金経理とは?

損金経理とは文字通り会計上費用や損失として経理(仕訳)しなければならないことを意味するため、

貸倒引当金xx/売掛金xxではなく、

貸倒損失xx/売掛金xx及び貸倒引当金xx/貸倒引当金戻入益xxとする必要があります。

 

監査対象会社のため会計基準の要請から最終的に、貸倒損失と貸倒引当金戻入益を相殺する場合は、損益計算書に貸倒損失が表示されないため税務署提出用の損益計算書の注記にその旨記載しておくべきと思います。

 

実務的には貸倒引当金繰入額と貸倒引当金戻入益を相殺して貸倒引当金繰入差額を計上し、貸倒損失はそのまま損益計算書に表示しておいた方が注記の手間が省けると思われます。

但し、この場合は、付属明細書の貸倒引当金の貸倒引当金繰入額の表示額と異なることになるため公認会計士の了解を得ておくことが必要と思われます。

 

■破産の場合

破産には債権の切捨て制度がないため法人税基本通達9-6-1に規定されていません。

また、個人が破産し裁判所から免責許可決定を受けると債権が消滅しますが、法人には免責制度がありません。

但し、下記の場合は法人の登記が閉鎖され、破産法人は消滅するため債権者の有する金銭債権の全額が滅失したと考えることが相当であり貸倒損失計上できることとされています(平成20年6月26日国税不服審判所裁決)。

尚、①の同時廃止と似た言葉に同意廃止がありますが、同意廃止の場合、貸倒損失処理はできませんのでご留意ください。

 

  • ①同時廃止…破産者に財産がほとんどなく破産手続費用さえ賄えないため破産手続開始決定(旧破産宣告)と同時に破産手続廃止の決定が行われる場合
  • ②異時廃止…破産手続開始決定し破産手続を実施していたが後日破産者に財産がほとんどなく破産手続費用さえ賄えないことが判明し破産手続廃止の決定が行われる場合
  • ③破産手続の終結決定…破産手続が終了し配当分配後の債権が回収不能となる場合

 

これらの場合、裁判所が官報等に公告しますので、その年度に法基通9-6-1により貸倒損失を損金算入する(上記裁決事例の考え方によれば)ことになります。

但し、法基通9-6-2により貸倒損失計上できると記載している文献もありますので、念のため損金経理しておいた方が無難かと思います。

 

 

また、終結決定までかなりの期間を要する場合もありますので、終結決定前に破産管財人から配当金額がない旨の証明を受領できる場合や配当がないことが明らかな場合は法基通9-6-2により貸倒損失に計上できることになります。

 

いずれにせよ、破産の場合は状況把握が遅れ放置したままとなると永久に損金算入できなくなる可能性もあるため留意が必要です。

法基通9-6-1の扱いであれば5年経過すると更正の請求ができなくなり、法基通9-6-2の扱いであればその期に損金経理し漏れると損金経理要件を欠くことになるからです。

 

債権者集会に出席しない場合は結果が不明となりますので、処理漏れを防止するため、管財事件であれば破産管財人に終結決定になったかどうかなどの結果を聞いてもよいかと思います。

 

また、破産に限らず法令による場合はまず申立てが行われることが多いため、税務上、申立て日の属する事業年度に貸倒引当金を計上しておくことも重要となります。

 

■連帯保証人がいる場合

連帯保証人がいる場合で法基通9-6-2により貸倒損失計上する場合は、債務者だけでなく連帯保証人についても上記表と同様、資産状況、支払能力等を勘案して回収不能かどうかを判断することになりますので、かなり判断は困難となると思われます。

 

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