新収益認識基準適用時の消費税は申告調整が必要か?

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新収益認識基準適用時の消費税は申告調整が必要か?

2018年

2018/07/31 新収益認識基準適用時の消費税は申告調整が必要か?

答えは原則として必要です。

皆様ご存知の通り、平成303月に会計上新しい収益認識基準(収益認識に関する会計基準、同適用指針)が公表されています。

これはIFRSとのコンバージェンスの観点から改定されたものです(IFRS15号(顧客との契約から生じる収益))。

適用対象会社は公認会計士による監査対象会社とされており、中小会社のうち非監査対象会社は従来通り企業会計原則に従い当会計基準は任意適用とされています。

監査対象会社の場合、当会計基準の適用開始については平成3341日以後開始する事業年度から強制適用、平成3041以後開始する事業年度又は平成301231日に終了する事業年度から任意適用となっています。

新収益認識基準の取扱いについては会計と法人税の間に差異はありますが、同様の処理となっている点も多くあります。

これに対して、消費税はかなり異なります。そのため法人税の売上高と消費税の課税売上高とで差異が生じる場面がありますのでご留意ください。

これに伴い、国税庁から「収益認識基準による場合の取扱いの例」が平成305月に公表されています。

概略は以下の通りです。便宜上、契約負債等は前受金勘定としています。

 

■資産の販売等に伴いポイントを付与する場合(ケース1.自社ポイントの付与)

 

家電量販店がポイント制度(税込売上高の10%付与)を運営し、当期に税込売上10,800円(内消費税

800円)、ポイント1,080ポイントを顧客に付与した。消化率を100%と仮定している。

尚、会計上のポイント(契約負債)は975円(10,000×1,080/(10,000+1,080))配分されることになります。

 

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詳細の説明は省略しますが、改正前は、売手は会計上売上を10,000円、ポイント引当金を1,080円計上して法人税法上はポイント引当金を全額否認していたと思われます。

改正後は一定の要件を満たすと会計上ポイント部分に配分された金額(1,080円ではなく975円)を「契約負債」として計上し、法人税法上も同様の処理が認められるようになりました。

従って、商品販売年度の法人税の課税所得は一部ポイント使用時の事業年度に繰延べられることになります。

しかし、消費税法上、売手は前受金処理が認められません。消費税法28条で課税標準が下記の通り定義されているからです。

<消費税法28条>

課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。

 

従って、従来通り商品販売年度に課税売上高を10,000円認識します。

そのため、消費税申告書上975円申告加算が必要となります。

但し、消費税法上申告調整を避けるため下記の仕訳を行うのも1つの方法だと思います。

 

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■長期回収期限の資産の販売等の対価を実効金利法で経理する場合(ケース2.契約における重要な金融要素)

企業は顧客に2年後一括払条件で商品を2,160円で売却した。契約上利息を付すこととされていないが、信用供与についての重要な便益が顧客に提供されると認められる。対価の調整として用いる金利は1%とする。

 

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詳細の説明は省略しますが、改正前は、売手は会計上受取利息を計上(実効金利法を採用)せず、売上を2,000円計上していたものと思われます。

改正後は一定の要件を満たすと会計上実効金利法を採用し、法人税法上も同様の処理が認められるようになりました。

しかし、消費税法上、売手は実効金利法が認められません。理由は先述のケース1と同様です。

従って、従来通り商品販売年度に課税売上高を2,000円認識します。

そのため、消費税申告書上43円申告加算が必要となります。

但し、消費税法上申告調整を避けるため下記の仕訳を行うのも1つの方法だと思います。

 

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■売上割戻(返金負債)を見込み計上する場合(ケース3.割戻を見込む販売)

企業は大口顧客との間で2年契約を締結し 売上割戻(リベート)制度を採用し、顧客に一定期間の売上数量により下記の通り販売単価を変動させている。

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企業は2年間で2,000個販売すると見込んでおり、1年目に1,000個販売し、2年目に1000個販売した。

従って、1年目に2年間平均販売単価は4.5円(=(1,000×5+1,000×4/2,000)となる見込みであった。

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詳細の説明は省略しますが、改正前は、売手は会計上商品販売年度末、通知時又は支払時にリベートを計上し、法人税法上も一定の要件を満たす場合はリベートを計上し、満たさない場合は未払リベート料を申告加算していたと思われます。

改正後は一定の要件を満たすと会計上返金負債を計上し、法人税法上も同様の処理が認められるようになりました。

しかし、消費税法上、売手は前受金処理が認められません。理由は先述のケース1と同様です。

従って、従来通り商品販売年度に課税売上高を5,000円、商品追加販売年度に4,000円認識します。

そのため、消費税申告書上、商品販売年度に500円申告加算、商品追加販売年度に500円申告減算が必要となります。

但し、消費税法上申告調整を避けるため下記の仕訳を行うのも1つの方法だと思います。

 

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■受託販売的な取引を行う場合(ケース6.消化仕入)

百貨店AはB社と消化仕入契約を締結している。百貨店Aは顧客に1個20,000円の商品(卸値19,000円)を1個販売した。百貨店Aは、自らをこの消化仕入に係る取引における代理人に該当すると判断している。

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詳細の説明は省略しますが、改正前は、売手は会計上販売時、売上を20,000円計上(総額表示)し、購入時に仕入19,000円計上していたものと思われます。また、法人税法上も同様の処理をしていたものと思われます。

改正後は自らを消化仕入に係る取引における代理人に該当すると判断した場合は、純額表示で手数料部分(1,000円)のみ売上計上し、法人税法上も同様の処理となりました。但し、法人税の課税所得は改正前後で変化はありません。売上高と売上原価が同額減少するのみです。

 

しかし、消費税法上、売手は純額表示が認められません。理由は先述のケース1と同様です。

従って、従来通り商品販売年度に課税売上高を20,000円、課税仕入高を19,000円認識します。

そのため、消費税申告書上、商品販売年度に課税売上高及び課税仕入高にそれぞれ19,000円申告加算が必要となります。

但し、消費税法上申告調整を避けるため下記の仕訳を行うのも1つの方法だと思います。

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上記のほか、ケース4.返品権付販売及びケース5.商品券等の処理も示されています。会計上の処理と税法の処理は異なりますが、法人税と消費税の処理はほぼ同様であるため説明を省略しております。

 

国税局及び企業会計基準委員会(ASBJ)から下記の通り収益認識に関する新しい取扱いが公表されておりますので詳細は下記をご参照下さい。

■法人税

・「収益認識に関する基準」への対応について~法人税関係~

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2018/pdf/001.pdf

・収益認識基準による場合の取扱いの例

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2018/pdf/0605_B.pdf

■会計

・収益認識に関する会計基準等の公表

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180330_01.pdf

・収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180330_02.pdf

・収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180330_03.pdf

・収益認識に関する会計基準の適用指針の設例(企業会計基準適用指針第30

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180330_04.pdf

 

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